management&design

経営に役立つデザインの情報を紹介します

第三章 デザインコーディネーターとしての中小企業診断士①

↓前章の記事

design-management.hatenablog.jp

 

第三章 デザインコーディネーターとしての中小企業診断士

3.1コーディネーターとは

 まずコーディネーターとはどういう意味かを確認しておきたい。一般的には「物事の調整・まとめ役」「複数の活動や組織の様々な要素を調和のとれた効率的な関係にする人」といった意味合いで使われることが多いだろう。

 ではこうしたコーディネーターはどういった理由で必要とされるのか。活用する側は物事を、こうしたい、こうありたいという曖昧な希望は持っているが、自身でそれを具体化し、実現に必要なリソースを確保する知識や能力、時間が十分にないため、専門家に業務の代行や意思決定の支援を依頼するというのが一般的であろう。

 コーディネーターは自身が直接実務に従事するわけではなく、専門知識や経験、センス、問題解決能力などを活かして、顧客の意に沿った問題解決提案や意思決定の支援や助言をするのである。

 

(1) 他コーディネーター資格との違い

 直接的なデザインのコーディネーター資格は存在しないが、デザインに関連する資格でのコーディネーター資格はいくつか存在している。

 代表的なところはカラーコーディネーターや、インテリアコーディネーターなどである。これらのデザイン関連資格の業務では、今回の論文で主張している中小企業へのデザイン導入のコーディネーターとはなりえないのか。私はなりえないと考えている。

理由は以下の通りである。

 

①内容が細分化されている、全体を俯瞰できる資格ではない。

②企業の潜在的要求を体現できない。

③組織全体での導入。戦略を通しての導入、販売、広告などとの連携は難しい。

 

 

 

図表3.1 コーディネーター資格比較

 

f:id:m-sudo:20160911163348p:plain

 ①多くのデザイン関連資格は非常に細分化されており、図表3.1を見るとわかるようにコーディネーター資格も同様に色とインテリアに細分化されている。非常に実務に近い内容のものがほとんどである。しかし、それぞれのデザイン資格保持者に、デザインを依頼する段階で、すでに企業のデザイン導入方法が間違っている可能性はないだろうか。デザイン導入になれていない企業なら、尚更その可能性は高い。

 こうした懸念があっても、経営全般に関する知識がなければ、デザイン導入を成功に導くことは難しい。

 

 ②①の内容と重なる部分があるが、経営全体を俯瞰する力がなければ、企業の潜在的なデザイン導入要求を引き出すこと、理解することはできない。企業の潜在的要求を十分に理化できない場合、デザイン導入が失敗に終わってしまう可能性は高い。

 

 ③図表3.1挙げている資格は何れも専門職としての資格であり、組織機能を横断して決定を下せるような内容の資格とは言い難い。

 

(2)小括

 ここまで見てきた通り、既存のデザイン関連コーディネーター資格では、経営全般の理解が十分でないため、経営上位概念でのデザイン導入という点では、コーディネーターになりえないと私は考えている。その点、中小企業診断士であれば、現状の持てる知識に、デザイン関連知識をある程度加えることで、デザインコーディネーターのとしての役割を担えるものと考えている。また、診断士の方が経営層との距離も近いことが多い。

第二章 中小企業へのデザイン導入の必要とその効果③

 

 

 

 

 

design-management.hatenablog.jp

 

※前章の記事

 2.3 デザイン成功要因・失敗要因

 ここまでは、企業におけるデザイン活動の導入の効果にはどのようなものがあるかを確認してきた。

 グローバルレベルでの競争激化、コモディティ化の進展といった外部環境の変化に対しデザインの導入が効果があることはこれまで見てきた通りである。

 ただ、効果があるからといって闇雲にデザインを導入してだけでは、高い効果が得られるとは限らない。そこには効果を生み出すに至る成功要因や失敗要因が存在する。特に、デザインの導入に馴染みが薄い中小企業であればなおさらである。ここからは、デザイン導入における成功要因、失敗要因を見ていきたい。

 

 (1)経営層での成功失敗要因

 まず、経営の一番上位エリアには経営者の意思決定があるわけだが、デザインの導入には「経営トップのデザインへの理解」が必要不可欠である。これはデザインに限らず、あらゆる新規事業に言えることだが、何か新しい取り組みを行う際には、トップの理解が得られなければ、目標達成を待たずしてなし崩しに終わってしまうことが多い。ましてやワンマン体制が多くみられる中小企業であればなおさらの事である。

それを裏付けるデータがある。産業研究所ではグッドデザイン賞を受賞した企業に対し、アンケート調査を行なった。アンケートでは図表2.14、図表2.15の各項目に対して重要性の認識(「重要である」「多少重要である」「あまり重要ではない」「重要ではない」の4段階)とその実施・定着状況(「実施し定着している」「取り組み始めている」「未着手である」)を尋ね、その結果をデザイン導入効果との関係を分析した。

こうした質問項目を基に、その結果をデザイン導入に関する認識の高い上位10企業、低い下位10企業に分けてまとめている。

図表2.14 デザイン導入成功へのキーファクター(仮説)

f:id:m-sudo:20160828084655p:plain

出典:産業研究所「デザイン導入の効果測定等に関する調査研究 2006年」

 

図表2.15 デザイン導入成功へのキーファクター(仮説)

(社外デザイナーマネジメント)

f:id:m-sudo:20160828084720p:plain

出典:産業研究所「デザイン導入の効果測定等に関する調査研究 2006年」

 

図表2.16 デザイン導入キーファクターに対する重要性認識

f:id:m-sudo:20160828084742p:plain

出典:産業研究所「デザイン導入の効果測定等に関する調査研究 2006年」基に筆者作成

 

図表2.17 デザイン導入キーファクターの実施定着率

f:id:m-sudo:20160828091006p:plain

出典:産業研究所「デザイン導入の効果測定等に関する調査研究 2006年」基に筆者作成

 

 この図表2.16は同研究のアンケート結果を基に、経営トップに関わる項目に絞って筆者が作成したグラフである。図表2.16を見ると調査企業の

「経営トップがデザインを理解する」

「デザインに対する方針を明確にする」

「長期的な視点でデザインに取り組む」

の3つの項目に対する重要性の認識は上位下位企業共に非常に高い結果となっている。

図表2.17の定着率に注目すると上位企業と下位企業との間に大きな開きがあり上位企業ほど定着率が高いことがわかる。このことから、これら3項目はデザイン導入の際の成功要因であると考えられる。

 また図表2.18はアンケート結果から、デザインに取り組んでいる期間とデザインマネジメントのレベルの関係をまとめたものである。各レベルは□オペレーションレベル□組織レベル□戦略レベルに分かれており戦略レベルに近づくにつれて高くなる。図表2.18を見ると取組期間が長いほどレベルが高くなっていくことが見て取れる。

図表2.18 デザインに取り組んでいる期間とデザインマネジメントレベル

f:id:m-sudo:20160828091042p:plain

出典:産業研究所「デザイン導入の効果測定等に関する調査研究 2006年」

 

 以上の点から、経営トップがデザインの重要性を理解したうえで、長期的な目線で一貫したデザイン政策を推進していくことが、成功のカギとなるといえるだろう。

 

 (2) マネジメント(組織)の問題 デザインの川上化

図表2.19 デザイナーの川上化の重要性

f:id:m-sudo:20160828091135p:plain

出典:産業研究所「デザイン導入の効果測定等に関する調査研究 2006年」基に筆者作成

 

 次に、デザイン活動の組織における運用方法での成功要因を確認する。

 先の章(ピラミッド図)において、デザインは経営の下位概念で上辺だけ導入しても効果が低いことを示した。成功要因も同様で、デザイナーやデザイン部門を、経営の川上から参加させ、さらに部門横断的に関与させることが、重要な要素である。図表2.19を見ると、重要度に対する認識は高く、上位企業下位企業で定着率に開きがあることから、これも成功要因の一つといえるだろう。

図表2.20 グッドデザイン賞受賞商品効果項目の定着率差

f:id:m-sudo:20160828091226p:plain

出典:産業研究所「デザイン導入の効果測定等に関する調査研究 2006年」基に筆者作成

 

 さらにこの川上化に関してはデザイン導入効果項目とも比較して分析されている。

 同研究では、①~③のものづくりに関する効果について着目している。もちろんそれらの項目も重要性は高く、また定着率の差異も大きいのだが、筆者は④④企業又は商品のブランドの構築と⑤経営理念の再構築に注目したい。本論文では、デザインの効果としてブランドの構築と経営理念の再構築に関して強く主張してきた。これらの効果を高める要因となるデザインの川上化の成功要因としての重要度は高いといえる。

 また、デザインを川上から横断的に導入するためには、①経営トップの理解のもと組織全体でデザインの必要性を理解すべき点と②デザイナー側にも経営知識が必要な点の二つの面が必要となる。この際にも、中小企業診断士のような存在が、この二つの側面を補う必要性があることを指摘しておく。

 

(3)デザイナーとの関係性の問題

 ここからは、企業とデザイナーとの関係性を考える。

 前提として、中小企業はここまで見てきた通り,デザインを導入したことがない場合がほとんどである。また導入においてもデザインコーディネーターが必要という観点から、ここではデザイナーは社外の人間と連携することを前提に話を進める。

①関係性構築における注意事項

 社外デザイナーとの関係性を考える際に図表2.21を見てみたい。

 この図は、1980年代の英国で行われた調査によるものである。当時のイギリスではデザイン振興策として、従業員1000 人以下の中小企業に社外デザイナー(デザインコンサルタント)を雇い入れるのに必要な補助金を支給していた。この補助を受けた221の企業に対して、フォローアップ調査を行った結果が図表2.21である。この図を見ると、

「デザイナーとの契約内容を明確化する」

「デザイナーとの役割分担を明確化する」

「デザイナーに予算、コスト等の制約条件を明示する」

「デザイン導入に対する社内のコンセンサスを作る」

において、重要性に対する認識に上位企業下位企業の間に大きな開きがあることがわかる。

 まず、先の2つの項目はデザイナーとの契約方法・条件に関する項目である。社外のデザイナーと上手く連携し効果を上げるためには、契約内容、役割分担をはじめに明確にし、デザイナーのモチベーションを高く維持することが必要であることが見て取れる。

 しつこく言っているように、中小企業はデザインの導入に慣れていないことが多い。そのためこのような基本的な契約についても、その間を取り持つ存在が、デザイン導入成功に必要となること考えられる。

 さらに「デザイン導入に対する社内のコンセンサスを作る」の項目においては、重要性認識だけでなく、その定着率にも大きな差がある。これはデザイン導入の前に、導入の必要性を社内全員が認識し理解する必要があることを示している。

図表2.21 デザイン導入を成功させるためのキーファクターに対する認識と実施率 (社外デザイナーのマネジメント)

f:id:m-sudo:20160828091349p:plain

出典:産業研究所「デザイン導入の効果測定等に関する調査研究 2006年」

 

 また、図表2.22を見ると、社外デザイナーとの取組を通じて企業管理者が感じた教訓として、「明確なブリーフィング、仕様特定重要性」を一番に挙げている。また3番目には「デザイナーの進捗管理と打ち合わせを定期的に実施することの重要性」を挙げており、ここでもデザイナーとのコミュニケーション、相互理解が重要視されていることがわかる。このことからも、企業とデザイナーの間を取り持つ潤滑油的存在の必要性が感じられる。

図表2.22 社外デザイナーとの取組を通じて企業の管理者が感じた教訓

f:id:m-sudo:20160828091423p:plain

出典:産業研究所「デザイン導入の効果測定等に関する調査研究 2006年」

 

②デザイナーのタイプを理解する

 デザイナーとの関係性を良好なものとするためには、条件や注意事項だけでなく、デザイナーがどのようなタイプなのかも理解する必要がある。

 図表2.23は「中小企業のデザイン戦略」内で紹介されている、3タイプの工業デザイナーのメリット、デメリット、付き合う際の注意事項を筆者がまとめたものである。

図表2.23 工業デザイナータイプ別の特長

f:id:m-sudo:20160828091453p:plain

出典:木全 賢 井上 和世「中小企業のデザイン戦略」PHPビジネス新書 2009年 より筆者作成

 

 この表に挙げている項目はあくまでこうした傾向がある、というものですべての工業デザイナーがここに当てはまるわけではない。しかし、デザイナーのタイプや傾向といったものを理解することで、企業へのデザイン導入の際の失敗は事前に防げる確立が高まるだろう。

 其々のデザイナーのタイプは一兆一旦である。それぞれの長所短所を理解し、図表2.23内の「注意事項」を中小企業診断士が補うことで、中小企業へのデザイン導入効果を高める必要がある。

 

(4)デザイン保護の問題

 デザインの導入効果を高めるためには、法律で保護し、競合の参入を阻止していくことも重要である。図2.24は知的財産研究所が企業に対し行ったアンケ―ト結果である。

図表2.24 製品企画・開発上で対策に苦労した他社の意匠権

f:id:m-sudo:20160828091543p:plain

出典:知的財産研究所 「企業の事業戦略におけるデザインを中心としたブランド形成・維持のための産業財産権制度の活用に関する調査研究報告書 2011年」

 

 これを見ると、8割の企業が他社の意匠権保護により何らかの対応を迫られており、意匠権活用が競合他社への抑止効果があることの表れとなっている。また意匠権活用にあたっては、少数で登録するよりも複数を登録して保護する方が望ましいと言われている。図表2.25では意匠権が他社牽制・参入防止効果を有していると回答した者と、それ以外の者で製品当たりの意匠出願の件数違いを調べたものである。意匠権が他社牽制・参入防止効果を有していると回答した者は、それ以外の者よりも多数の意匠出願を行っていることが見て取れる。このことから、意匠権により他社牽制・参入防止効果を得るためには、多数の意匠出願を行う方がより効果的といえる。

図表2.25 他社牽制・参入防止効果に有効な産業財産権と意匠出願件数

f:id:m-sudo:20160828091613p:plain

出典:知的財産研究所 「企業の事業戦略におけるデザインを中心としたブランド形成・維持のための産業財産権制度の活用に関する調査研究報告書 2011年」

 

 ただ、意匠権の登録に当たっては当然費用や手間が発生する。中小企業の限りある経営資源の中では、その都度製品デザインの重要性と意匠権登録コストとの兼ね合いを見ながら対応していく必要があるだろう。

 また、製品ライフサイクルの短い物に限っては、意匠権よりも不正競争防止法によって保護することも有効であるとされている。(不正競争防止法では、最初の販売から3年まで有効である)

 

(5)小括 

 デザイン導入の成功要因ここでもう一度まとめておきたい。

 まずデザイン導入においては企業の経営層の理解と、その経営層による長期目線での活動継続が重要である。

 経営上位の理解が得られたら、部分的に導入するだけでなく、企業組織の活動全般に渡り横断的に導入することが求められる。

 また、対企業の視点だけでなく対デザイナーに対しては、デザイナーとの契約内容を明確化する」「デザイナーとの役割分担を明確化する」「デザイナーに予算、コスト等の制約条件を明示する」といった項目の重要性を確認、ひいてはデザイナーとの打ち合わせの重要を確認した。

 法律の面からは、意匠権を効果的に活用する術を考えている。

 これらいずれの成功要因も、経営資源に余裕のない中小企業においては、全てを満足に満たすことは容易ではない。この成功要因を高める為に、中小企業診断士が、デザインコーディネーターとして企業とデザイナーとの橋渡し役になる必要性を、次の章から示していきたい。

第二章 中小企業へのデザイン導入の必要とその効果②

 

 

 

 

design-management.hatenablog.jp

 ※前章の記事

 

2.2デザイン導入の効果

 この章からはデザインを導入した際の効果について掘り下げていく。デザインの効果を考える上で、ハーバードビジネススクールのRobertHayesの整理した考え方が参考になる。彼は企業が行うデザイン活動の役割は大きく分けて4つあるとした。その要約は以下のようなものである。

 

①競争力促進ツールとしてのデザイン

優れたデザインは、製造コストの削減や、製品の品質や信頼性を高めるとともに、メンテナンスコストやリードタイムの削減に貢献する

②差別化ツールとしてのデザイン

機能、品質、価格、製造コスト、開発サイクルといった要素が似通ったコモディティ化が進んだ市場においては、優れたデザインが競合からの差別化要素となり、顧客に選ばれる商品となる

③統合ツールとしてのデザイン

優れたデザインを生み出す過程で、デザイン、エンジニアリング、マーケティング、製造といった開発の諸段階における人と機能が統合されることで部門間コンフリクトを解消し、開発プロセスの合理化を実現する。

④コミュニケーションツールとしてのデザイン

デザインは、企業のメッセージ、価値観、イメージを社内外に伝達し、共有させるコミュニケーションツールである。

 

 これら4つの役割を基に財団法人産業研究所が作成したデザイン効果項目が図表2.5である。今後この表を中心にデザイン導入の効果を考えていきたい。

図表2.5 デザイン効果項目

f:id:m-sudo:20160827234148p:plain

出典:産業研究所「デザイン導入の効果測定等に関する調査研究 2006年」基に筆者作成

 

(1)信頼性の向上

 「2.1デザイン導入の必要性」で中小企業の信頼性向上の必要性と、それに対するデザインの有効性を述べた。それを裏付けるデータが先ほどの産業研究所『デザイン導入の効果測定等に関する調査研究』から出されている。内容としては、先ほどの図表2.5の効果項目を基に、グッドデザイン賞を受賞した企業に向け、効果項目の評価を依頼したものである。その結果をまとめた表が図表2.6である。

 表の説明として、対象は過去10 年間にグッドデザイン賞を受賞した企業100 社である。アンケート項目は先ほどの図表2.5各項目である。各項目については、「かなり効果があった」(2点)、「多少効果があった」(1点)、「あまり効果がなかった」(-1点)、「ほとんど効果がなかった」(-2点)の4択式としている。

 集計表では「かなり効果があった」「多少効果があった」を「肯定的回答」とし、その企業の割合を記載している。また、「平均点」の欄は、各項目の合計点数を回答企業数で除したものである。

図表2.6 デザイン効果項目調査結果

 

f:id:m-sudo:20160827234356p:plain

出典:産業研究所「デザイン導入の効果測定等に関する調査研究 2006年」基に筆者作成

 この表を見ると企業イメージや知名度の向上といった項目に関しては8割を超える企業が肯定的な回答を示しており、企業の信頼度向上に対しデザイン活動の効果が高いことの裏付けとなっている。特にこの企業イメージや知名度といった項目は、全ての項目の中でも一番肯定的な回答が多く、デザインの効果が最も高い分野である。

 

図表2.7 デザインの企業イメージ向上への効果

f:id:m-sudo:20160827234428p:plain

出典:産業研究所「デザイン導入の効果測定等に関する調査研究 2006年」基に筆者作成

 

 他にも、1.2.2でも触れた知的財産研究所の企業知財部門へのアンケート調査では、デザインの導入が企業イメージの向上に繋がったとする回答が、知財担当者では約6割、デザイン担当者では約7割に上っている。

 デザインの企業イメージ向上への効果を裏付けるデータは多い。実例を考えると、1990年代に多くの企業が導入し関心を集めた、CI(コーポレートアイデンティティ)という概念もデザイン要素を取り入れ、企業の信頼性、イメージの向上を図ったものである。

 もっと身近な例で考えてみれば、2.1でも取り上げたように、会社案内、会社HP等も、全く配慮のないデザインでは、その企業に対する信頼感は変わってくるはずである。会社案内を見た人が知りたい情報が的確に主張されているか、その企業の特長はどこなのか、それが見えない会社案内や会社HPでは見た人が一抹の不安を感じるであろうことは容易に想像できる。

 

(2)経営理念構築への効果

 信頼性の向上と同様に「2.1デザイン導入の必要性」で経営理念構築の必要を述べた。経営理念構築にもデザイン導入の効果があることが先ほどの資料から見て取れる。

 他にも、1.2.2でも触れた知的財産研究所の企業知財部門へのアンケート調査では、デザインの導入が企業イメージの向上に繋がったとする回答が、知財担当者では約6割、デザイン担当者では約7割に上っている。

 デザインの企業イメージ向上への効果を裏付けるデータは多い。

 実例を考えると、1990年代に多くの企業が導入し関心を集めた、CI(コーポレートアイデンティティ)という概念もデザイン要素を取り入れ、企業の信頼性、イメージの向上を図ったものである。

 もっと身近な例で考えてみれば、2.1でも取り上げたように、会社案内、会社HP等も、全く配慮のないデザインでは、その企業に対する信頼感は変わってくるはずである。会社案内を見た人が知りたい情報が的確に主張されているか、その企業の特長はどこなのか、それが見えない会社案内や会社HPでは見た人が一抹の不安を感じるであろうことは容易に想像できる。

 

(2)経営理念構築への効果

 信頼性の向上と同様に「2.1デザイン導入の必要性」で経営理念構築の必要を述べた。経営理念構築にもデザイン導入の効果があることが先ほどの資料から見て取れる。

図表2.8 デザイン効果項目調査結果 個別項目

f:id:m-sudo:20160827234520p:plain

出典:産業研究所「デザイン導入の効果測定等に関する調査研究 2006年」基に筆者作成

 

 経営理念の再構築という項目に関しては6割以上の企業が肯定的な回答を示している。また社員の意識の変化という項目も肯定的回答が多い。社員の意識の変化とは、経営理念が明確にされることで現れる効果ともいえるため、効果の裏付けをより後押しするものとなっている。

 また、後述のブランドの構築という視点でも、経営理念の明確化は非常に重要な役割を持つ。知財研究所のアンケートによれば、ブランドに経営理念が反映されるべきかという問いに対し、企業のデザイン担当者の9割以上が、「はい」と答えている。

図表2.9 ブランドに経営理念が反映されるべきか

 

f:id:m-sudo:20160827234558p:plain

出典:知的財産研究所 「企業の事業戦略におけるデザインを中心としたブランド形成・維持のための産業財産権制度の活用に関する調査研究報告書 2011年」より筆者作成

 

 デザインの活用が経営理念の再構築に繋がる例としては、アメリカのオフィス家具メーカー、ハーマン・ミラー社の例が挙げられる。

 同社は経営理念として「人間の問題解決を図る」ことをテーマとし、それを伝えるためのツールとしてデザインを明確に位置付けている。創業当初は至極一般的な家具メーカーに過ぎなかったハーマン・ミラー社が、このような理念を掲げるようになった切っ掛けは、ジョージ・ネルソンやチャールズ&レイ・イームズと言った世界的なデザイナーとの出会いである。「デザインは社会の変化に伴って生まれてくる人間の問題に対応しないといけない」(ジョージ・ネルソン)、「デザインは問題を解決するための適切な解答でなければならない」(チャールズ・イームズ)と言ったデザイナー達から学んだ思想を経営理念にまで高め、それを大切に受け継いできたからこそ、現在のトップブランドとしての姿があるとハーマン・ミラー社は考えている。デザインの導入が、経営理念を明確化する切っ掛けとなり、経営理念の再構築へと繋がった例といえる。

 

(3)価格競争回避への効果

 2.1で外部環境の変化から価格競争の回避への対策が急務であるということを説明してきたが、デザインの導入は価格競争回避に効果がある。ただし、効果を得るためには条件がある。

 図表2.10はデザインの導入が高価格設定に効果があった企業とそうでない企業を、デザイン活動の取組項目ごとに比較した物である。これをみると、効果のあった企業となかった企業で乖離の大きい項目は以下の3つになる。

 

①商品と連動した営業・広報戦略を策定すること

②競合他社の商品をデザイナーが十分に知ること

③デザイナーが経営視点を身につけること

 

 これらの項目に注意しデザイン導入を行えば、価格競争回避が可能といえる。

 ただし、これら3つの項目はいずれもデザイナーに経営戦略の視点を求めるものである。現実問題として中小企業が、このような高い能力を持ったデザイナーを見つけ適正価格で契約すること、商品デザインと連動した営業・広報戦略を独力で展開することは、非常に難しいことだろう。※後の章でも述べるが、このような条件を満たし明確に効果を上げるためには、企業とデザイナーを繋ぐ橋渡し役が必要といえる。

 また、企業とデザイナーとの橋渡しだけでなく、デザインを導入することで、企業や商品のブランド力を高めるところまで繋げることが求められる。

図表2.10 デザイン導入で「従来よりも高価格での価格設定」を実現した企業の特長 

f:id:m-sudo:20160827234747p:plain

出典:産業研究所「デザイン導入の効果測定等に関する調査研究 2006年」基に筆者作成

 

(4)ブランド構築への効果

 デザインの効果はブランドの構築とセットで語られることが非常に多い。本論文でもデザイン活動をブランド化まで繋げることが重要だと主張してきた。

 ではまずデザイン導入がブランド構築に効果があるかという事を確認していきたい。知的財産研究所が行った企業へのアンケート調査によると、ブランド構築に重視すべきデザインは何かという選択式の問いに対し、「製品のデザイン」(63 者、約86%)及び「製品群のデザイン」(57 者、約78%)を回答した割合が高く、「ブランド構築にデザインを重視する必要はない」と回答した割合はゼロであった。このことから、企業はブランド構築には製品デザインが非常に重要な要素であると考えていることがわかり、デザインの効果を感じているといえる。

図表2.11 ブランド構築に重視すべきデザイン

f:id:m-sudo:20160827234822p:plain

出典:知的財産研究所 「企業の事業戦略におけるデザインを中心としたブランド形成・維持のための産業財産権制度の活用に関する調査研究報告書 2011年」より筆者作成

 

 デザインの導入がブランド構築に効果があるということを確認したところで、今度はブランド構築がもたらす効果についても考えたい。

 先ほどから、ブランド構築は価格競争の回避が可能と主張してきたわけだが、ブランド構築の効果はこれだけに留まらない。一般的に効果があるとされる項目だけでも以下のように列挙することができる。

 

  • 参入障壁の構築
  • 競合に対する差別化による競争優位確立
  • 商品、サービスの選択確率向上
  • リピート率向上…etc

 

 これらの効果はブランドの知覚価値を高めることにより実現できる。そのためにデザインが核になることは言うまでもない。こうした効果は中小企業経営における競争優位の源泉となるだろう。

 また経済産業省による、ブランドがもたらす効果についての調査結果も存在する。「ブランド価値評価研究会報告書 平成14年」では、4000近い企業(上場・非上場企業含む)に対しブランドに関する質問とその結果が掲載されている。図表2.12はその中でも競争優位をもたらすブランド効果に焦点を絞ったものである。同図をみると、製品の高価格設定や、価格下落の防止、またシナジー効果による新市場開拓といった効果がデータにより示されている。

図表2.12 ブランドが経営に与える効果

f:id:m-sudo:20160827234921p:plain

出典:経済産業省「ブランド価値評価研究会報告書 2002年」 基に筆者作成

 

 この図を見ると、

①競合に比べ高価格設定可能

②競合と同価格でも販売量が多い

③ブランドによるシナジー効果で新市場開拓が可能

 

 この3つの項目の値が高いことが見て取れる。①②の項目は、これまで主張してきた価格競争回避の裏付けとなるものである。また、ブランドによる知名度や実績等のシナジーを利用し新市場を開拓することにも効果があるとされている。どちらの効果も企業にとって大きな競争優位となりえるだろう。

 デザイン導入をブランド構築にまで高めることができれば、こうしたブランド効果も同時に期待することができるのである。

 

(5) 小括

  図表2.13 デザインが経営に与える効果 概念図

f:id:m-sudo:20160827235219p:plain

 ここまでのデザインの効果内容を振り返ってみると図2.13のようにまとめることができる。まず経営理念の再構築という項目は、企業経営においては一番上の上位概念となる。

 この企業理念が明確に固まった上で、その企業理念を踏襲したブランド化や企業イメージの発信を行う。

 そしてそのブランド力・企業イメージを基に、価格競争を回避し、製品やサービスの高価格設定を実現する。

 こうしてみると、やはりデザインの導入は企業経営の下位概念でのみ導入しても効果が十分に得られないことがわかる。こうした一連のデザインの価値連鎖を実現するためには、中小企業診断士のような、企業経営全体を俯瞰してみることができる存在が、上手くデザイナーと企業の間に立って調整することが重要であるといえる。

 また、これらデザイン活動全体を統制していくには、機動性・柔軟性の高い中小企業のほうが望ましいこともわかる。

 

 

第二章 中小企業へのデザイン導入の必要性とその効果①

 

 

design-management.hatenablog.jp

 ↑前章の記事

2章 デザイン導入の必要性とその効果

 1章まで現状確認として、日本でのデザイン活動が他国に比べて相対的に後れを取っていること、デザインに対する消費者意識、生産者意識が高まっていること等を確認してきた。

 2章では、デザイン活動が何故必要なのか、導入によってどのような効果が期待できるのかといった点について内容を掘り下げていきたい。

 

2.1デザイン導入の必要性

(1)製品のコモディディ化による価格競争激化 外部要因製造業

 デザイン活動の導入がなぜ必要なのか、1つめの理由は新興国(とりわけアジア諸国)の技術力が向上してきたことによる、製品のコモディティ化の進展である。

 2013年版ものづくり白書の冒頭(※3P)では「我が国経済を支えてきたものづくり産業の揺らぎ」と題して1960年代~2010年代にかけての国内外のものづくり産業の変化を示している。同資料によれば、日本でのものづくり産業は1960年代~80年代の間こそ「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とも言われ高い技術力・競争力を誇っていたが、1990年代以降は日本がバブル崩壊による景気低迷にあえぐ中、中国や韓国をはじめとする新興国に技術・品質面での差を大きく縮められてしまった(コモディティ化が進んでしまった)と書かれている。中でもエレクトロニクス産業はコモディティ化が顕著である。同資料99Pからは製造プロセスのデジタル化や、製品そのもののデジタル化によるコモディティ化を取り上げている。

製造プロセスのデジタル化

 CADやCAM、NC旋盤やマシニングセンタ等を活用することでより設計や製造がデジタル化され、技術者の熟練度による製品品質の差異が減少した。

製品そのもののデジタル化

 製品がデジタル化されていく中で、製品の部品同士のインターフェイスを標準化させる動きが進み、各部品を組み合わせれば製品を完成させることができる「モジュール化」が進んだ。これも技術面での製品の差別化を困難なものにした。

図2.1 日本のものづくり産業での技術競争力の変遷

f:id:m-sudo:20160826004015p:plain

出典:経済産業省 「2013年版 ものづくり白書」より筆者作成

 

 このようにコモディティ化が進んだ製品・産業は新興国との技術面での差別化が困難になるため、価格競争を強いられることとなり、収益性の確保が難しくなる。図表2.2をみると、中国・韓国企業との競争を強いられる際には営業利益の減少傾向が大きいことが見て取れる。

図表2.2 中国・韓国企業と競合すると利益面で苦戦

f:id:m-sudo:20160826004048p:plain

出典:経済産業省 「2013年版 ものづくり白書」

 

 また、同資料60pでは技術力の源泉である研究開発の量的・質的な低下がみられるとしている。図表2.3を見るとわかるが日本はリーマンショックの2008年以降研究開発費が減少しているのに対し、その他各国は研究開発費の増加を続けている。なかでもとりわけ中国・韓国の増加率は急激なものであり、今後もこの流れが続くものと思われる。

こうした状況を見ると、少なくともしばらくは日本がかつてように「ジャパンアズナンバ-ワン」と呼ばれるような技術競争力を取り戻すことは難しいであろうことが予測される。

 1.2.2で企業の側も機能だけでなくデザインでも競合と差をつける必要があると感じていることが見て取れたが、その背景にはこうしたコモディディ化の進展が大きく作用しているものと考えられる。

 以上の内容から考えると、ものづくり・製造業において技術面での差別化を打ち出していくことは容易ではなく、技術面以外での差別化要因がなければ、価格競争から脱することは難しいと言えるだろう。

 本論文ではその差別化要因としてデザインを提唱したいのである。

図表2.3 企業部門の研究開発費の推移

f:id:m-sudo:20160826004137p:plain

出典:経済産業省 「2013年版 ものづくり白書」

 

(2)価格競争の回避

 ものづくり産業・サービス業ともに価格競争が激しく、新たな差別化要因が必要であるということを確認してきた。

 当たり前のことであるが、企業にとって価格競争は避けられればそれにこしたことはない(価格競争の果てに市場を独占することができるのなら話は別だが)。価格競争を回避していくためにもデザイン活動は必要である。

 2013年版ものづくり白書116Pではコモディティ化が進行する中でのブランド戦略の必要性を主張している。近年大きく台頭してきた企業の代表例としてアップルやサムスン電子があるが、これら2企業とも近年急速にブランド価値を高めていることが示されている。そして、これらの企業はブランド価値だけなく、企業としての業績も近年急速に伸ばしている。

 後述するが、デザインはブランド形成に大きく効果を表すものであり、デザイン活動をブランド構築までしっかりと繋げることができれば、価格競争の回避を実現できる。

 

(3)中小企業でこそ必要性が高い

 デザイン活動の導入は、中小企業では特に遅れがちであるが、それは決して中小企業では効果が薄いからというわけではない。むしろ私は中小企業でこそ導入の効果は高く、また運用も大手企業に比べて容易であると考えている。

イノベーションのジレンマ

 大手企業の市場でのポジションはコトラーマーケティング戦略の4類型でいえば、リーダーであることがほとんどである。リーダー企業がとるべき戦略のセオリーとしては、商品のフルライン化による市場シェアの確保と、競合他社の差別の効果を相対的に下げるための同質化である。これは企業に既にしっかりとした認知力・ブランド力があって成り立つ戦略といえる。

 しかし、リーダー企業はセオリーの戦略を守らんとするために、自らがイノベーションを起こすことは難しいことが多い。そのため、常にリーダーのポジションを維持できる企業は少なく、チャレンジャーやニッチャーといった企業が起こすイノベーションによってそのポジションが入れ替わることになる。

 デザインとはコミュニケーションのツールであり、その効果が強く働くときというのは、製品の革新性や競合との差別化要因を、一貫性を持って伝えるときである。イノベーションの原動力にもなりえる要素である。

 リーダー企業が展開する戦略の中心はフルライン化や同質化であり、その事業の展開範囲の広さから、相対的に「一貫性を貫く」というのは難しくなってくる。であればデザインの効果を最大限に発揮するのも難しいといえる。イノベーションのジレンマに陥るのと同様にである。2000年前半、携帯電話業界でトップをひた走っていたドコモが、当時チャレンジャー企業であったauに、デザイン携帯インフォーバーを市場に投入され、シェアを脅かされたのは代表的な例である。

 では一番効果的にデザインを活用できるのはどのポジションの企業なのか。それはニッチャー企業である。チャレンジャー企業もリーダー企業より適しているといえるが、ニッチャー企業が一番適していると私は考えている。その理由は①市場規模と②統制の容易さの2つである。

②市場規模

 大手企業はその規模の大きさから企業の維持にかかるコストも比例して高くなる。そのゆえに一定以上の収益性が必要になってくる為、それに見合う市場規模を必要とする。それに対し中小企業は組織の維持費が相対的に低く済むため、特定のターゲットへとしっかりと絞り込める。

 日本の大手家電メーカーの製品が、市場規模を増やすためにターゲット層を広げ、そのニーズを満たすために多機能となり、コンセプトがぶれるというのはその典型的な例である。

 そのため、市場規模を絞り、ターゲットを絞ることができる中小企業のほうがその活用性は高い。

③統制が容易

 先述の通り大手(リーダー)企業はフルライン化が基本戦略である。そのため広く展開した製品に一貫性を持たせるよう管理・統制するのは容易ではない。さらに、大手企業はその従業員の多さから組織が複雑化することが多く、社内の意思統一を図るためにかかるコストは非常に大きい。

 それに引き替え、中小企業では製品ライン、従業員数が少ないがゆえに製品に一貫性を持たせやすく、また社内の意思統一への迅速な対応が可能なのである。アップルを例にすれば、今でこそ社員数は多いが、製品ラインはimacipodiphoneipadのみである。圧倒的に絞られた製品ラインと言える。

図表2.4 市場ポジショニング

f:id:m-sudo:20160826004356p:plain

出典:Philip Kotler 競争地位別戦略より筆者作成

 

(4)事業基盤の安定化のために

①創業後の企業が10年で何割生き残れるか

 創業後10年までどれだけの会社が生き残ることができるか。諸説ある話だが、いずれも創業から10年間、企業を存続させることは非常に大変だと言われている。

 創業まもない企業は、ノウハウ・認知度・信頼度といった要素が、老舗企業と比べ低くならざるを得ない。たとえ創業当初スタートダッシュに成功したとしても、事業基盤を固めるところまでは至らず、廃業を余儀なくされる企業は少なくない。長期的に事業基盤を安定させ、企業を維持していくというのは並大抵のことではない。企業の本質がゴーイングコンサーン(永続事業体)であるといわれるのもそれが理由である。

②経営理念が曖昧な企業の多さ

 企業を維持・存続していくうえで重要な要素として経営理念が明確に確立されているかどうかという問題がある。「帝国データバンク『百年続く企業の条件』朝日新聞出版、2009年」によれば、経営破綻を起こす企業の多くが、経営理念が曖昧であると語られている。自社の経営理念・ドメインが明確に定義されていなければ、企業として向かうべき方向が定まらず、自社にノウハウは蓄積しない。

 後述するが、デザインの活用は自社の企業理念の再定義の切っ掛けとなり、企業理念の定着に効果がある。

③ターゲットが曖昧な企業の多さ

 企業理念が曖昧な企業は、必然的にその顧客ターゲットも曖昧になるものである。

 短期的には、とりあえず売り上げの見込みが高いところへアプローチを集中したほうが、成果がでることもある。だが長期的な視点で考えれば、経営理念や企業戦略に基づく顧客ターゲットを設定すれば、その分ノウハウや企業の認知度といった要素は効率的に上がっていくはずである。

④知名度・信頼度の向上

 企業を維持していく上では、知名度や信頼度も当然必要となる。多くの人が新規の取引先との商談に臨む際には、その企業の知名度や信頼度をまず気に掛けるはずだ。創業まもない企業は、歴史が浅いだけにこれらの要素が不足しがちである。

 では歴史や知名度が浅い企業と新たに取引を検討する際に何を基準に判断するか。それは会社案内や会社HP、成果物の「見た目」ではないだろうか。「人は見た目が9割」という本が刊行され注目されたことは記憶に新しいが、初対面での判断基準の多くを占めるのは見た目である。「見た目より中身こそが重要」と考える人は多いだろうが、それはあくまで初対面でのコミュニケーションに成功した後の話である。初対面でのコミュニケーションでその後に繋げることができなければ、中身の良さを伝えることはできない。その意味でも、デザインが信頼を得るために重要な要素となる。

 ここでいう「見た目」とは、何も外見がスタイリッシュであるということではない。伝えたいことが伝わる見た目になっているかということである。例えば、会社HPが非常に簡素な造りで、どこをクリックすれば自分が知りたい情報が見ることができるのかわからないような造りであった場合、その企業に対する信頼感は間違いなく下がるだろう。見た目を改善し、信頼度を高めるとはそういった意味である。

 

(5)小括 

 ここまでのデザイン導入の必要性についての内容を振り返ると、まず一つ目には外部環境の変化に対する対応の必然性が挙げられた。グローバル競争のなかでは、もはや技術だけでは価格競争を回避することはできないことを確認した。

 二つ目には中小企業のデザイン導入優位性についてである。技術力に変わる競争要因としてデザインを考えた際に、規模の大きい企業に比べ中小企業はデザインを活用しやすいことを確認した。

 三つ目には組織内部の再強化の必要性である。デザインを導入することで、中小企業では曖昧になりがちな企業理念やポジションといった、企業自身の自己把握の必要性を見てきた。

 以上の三つの点から、デザイン活動の導入が、取り分け中小企業において必要であることを確認した。

 

※次章記事↓

 

design-management.hatenablog.jp

 

第一章 日本におけるデザイン活動の現状②

 

design-management.hatenablog.jp

 ↑※この記事からの続きの内容

1.2.2デザインに対する消費者意識の高まり

(1)消費マインドの変化

 デザイン導入の必要性を説くに当たり、消費者マインドの変化というのも一つの重要な要素として取り上げておきたい。

 単純にデザインに関する関心が高まっていることを示すデータとしては、日本産業デザイン振興会が行った「第一回デザインに関する意識調査」の中でデザインに関する興味・関心を聞いた質問があり、世代に関わらず約7割もの人がデザインに対し関心を持っていることが分かった。

 

図表1.5 デザインに関する意識調査

f:id:m-sudo:20160824021612p:plain

出典:公益財団法人日本デザイン振興会 「第一回意識調査 2007年」より筆者作成

 

 また、日本政策投資銀行資料(※直、正式名)によれば、グローバルレベルでのコモディディ化が急速に進む中、デザイン性・ファッション性に優れた製品は発売後も製品価格の下落幅が小さく、デザインが消費者の支持獲得、付加価値向上に一役買っていることが主張されている。図表1.6は掃除機を対象に、発売から一年間、販売価格の推移を集計したものである。その中で、デザイン性に優れた製品は一般的な製品に比べ、終始価格下落を小さく抑えていることが示されている。

 

図表1.6 家電に見る商品の主な特徴別価格指数推移の一例

f:id:m-sudo:20160824021637p:plain

出典:日本政策投資銀行 「デザインイノベーションによる関西企業の高付加価値化戦略 2013年」

 

 他にも、経済産業省「生活者の感性価値と価格プレミアムに関する意識調査」によれば、自分のこだわりのあるものなら価格が高くても購入すると考えている人が8割近くにも上ることが分かった。

 コモディティ化が進む一方、デザインやブランドといった価値観にはある程度お金を払っても良いという消費者意識があることがうかがえる。

 

図表1.7 商品購入におけるこだわり意識

f:id:m-sudo:20160824021709p:plain

出典:経済産業省「生活者の感性価値と価格プレミアムに関する意識調査 2006年」基に筆者作成

 

図表1.8 製品開発におけるデザインの開発の役割は高まるか

f:id:m-sudo:20160824021726p:plain

出典:知的財産研究所 「企業の事業戦略におけるデザインを中心としたブランド形成・維持のための産業財産権制度の活用に関する調査研究報告書 2011年」より筆者差作成

  

図表1.9 デザイン開発の役割が高まっていく理由(質問D-10)

f:id:m-sudo:20160824021745p:plain

出典:知的財産研究所 「企業の事業戦略におけるデザインを中心としたブランド形成・維持のための産業財産権制度の活用に関する調査研究報告書 2011年」より筆者作成

 

 また、消費者だけに限らず、生産者側においてもデザインに関する関心は高まりを見せている。図表1.8は知的財産研究所平成23年に行った企業の知的財産部門に対して行ったアンケート調査の結果である。図表1.8を見ると製品開発におけるデザイン開発の役割が今後高まっていくかという問いに対して9割以上の企業が高まるとの見方を示している。

 これだけでもデザイン導入の必要性を感じさせる内容だが、さらに先の質問でデザインの役割が高まるであろうと答えた企業の、答えた理由を調査した結果が図表1.9である。

「機能・性能で差をつけるだけでなくさらにデザインでも差をつける必要があるから」(49 、70%)、「機能・性能による製品の差別化が難しいから」(43 、約61%)等、製品の差別化への活用の必要性を感じる内容のものが多いだけでなく、「消費者がデザインでモノを選ぶ時代であるから」(40 、約57%)といった消費者の意識の高まりに引っ張られる形で、デザインの必要性を意識している回答も多く、デザインに対する消費者意識の高まりを裏付ける内容となっている。

 

(2)感性価値の台頭

 こうした中、経済産業省では感性価値という言葉を作り、推奨している。

「感性価値」とは、生活者の感性に働きかけ、感動や共感を得ることによって顕在化する価値、とされている。現在の日本では長引く景気低迷によるイノベーションの減少や、新興国の急激な台頭により、機能や価格といった評価軸だけでは差別化を行うことが困難になりつつある。そうしたなか、作り手の感性や想い、コンセプトといった「物語性」が消費者に伝わることによって新たな付加価値、新たな評価軸が生まれるものとして期待されている。

 この感性価値を高めるため、消費者に訴える際に、デザインが大きな役割を果たすものと期待されているのである。

 この章で見てきた、消費者からのデザインへの関心が高まっているという意味でも、企業経営にデザインを導入する必要性・意義が高まっているといえるだろう。

 

(3)小括

 ここまでデザインに対する消費者、生産者両側からの関心の高まりを見てきた。時代の移り変わりと共に、消費者の意識や重要視する要素は確実に移り変わっており、一般消費者レベルまでデザインを選別要素とする動きが広まっていることがわかる。そして敏感な生産者・企業側は、その動きをいち早く察知しており、差別化要因や付加価値要素として、デザインの重要性を感じ取っていることがわかる。

 

※次章記事↓

 

design-management.hatenablog.jp