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経営に役立つデザインの情報を紹介します

第二章 中小企業へのデザイン導入の必要性とその効果①

 

 

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2章 デザイン導入の必要性とその効果

 1章まで現状確認として、日本でのデザイン活動が他国に比べて相対的に後れを取っていること、デザインに対する消費者意識、生産者意識が高まっていること等を確認してきた。

 2章では、デザイン活動が何故必要なのか、導入によってどのような効果が期待できるのかといった点について内容を掘り下げていきたい。

 

2.1デザイン導入の必要性

(1)製品のコモディディ化による価格競争激化 外部要因製造業

 デザイン活動の導入がなぜ必要なのか、1つめの理由は新興国(とりわけアジア諸国)の技術力が向上してきたことによる、製品のコモディティ化の進展である。

 2013年版ものづくり白書の冒頭(※3P)では「我が国経済を支えてきたものづくり産業の揺らぎ」と題して1960年代~2010年代にかけての国内外のものづくり産業の変化を示している。同資料によれば、日本でのものづくり産業は1960年代~80年代の間こそ「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とも言われ高い技術力・競争力を誇っていたが、1990年代以降は日本がバブル崩壊による景気低迷にあえぐ中、中国や韓国をはじめとする新興国に技術・品質面での差を大きく縮められてしまった(コモディティ化が進んでしまった)と書かれている。中でもエレクトロニクス産業はコモディティ化が顕著である。同資料99Pからは製造プロセスのデジタル化や、製品そのもののデジタル化によるコモディティ化を取り上げている。

製造プロセスのデジタル化

 CADやCAM、NC旋盤やマシニングセンタ等を活用することでより設計や製造がデジタル化され、技術者の熟練度による製品品質の差異が減少した。

製品そのもののデジタル化

 製品がデジタル化されていく中で、製品の部品同士のインターフェイスを標準化させる動きが進み、各部品を組み合わせれば製品を完成させることができる「モジュール化」が進んだ。これも技術面での製品の差別化を困難なものにした。

図2.1 日本のものづくり産業での技術競争力の変遷

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出典:経済産業省 「2013年版 ものづくり白書」より筆者作成

 

 このようにコモディティ化が進んだ製品・産業は新興国との技術面での差別化が困難になるため、価格競争を強いられることとなり、収益性の確保が難しくなる。図表2.2をみると、中国・韓国企業との競争を強いられる際には営業利益の減少傾向が大きいことが見て取れる。

図表2.2 中国・韓国企業と競合すると利益面で苦戦

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出典:経済産業省 「2013年版 ものづくり白書」

 

 また、同資料60pでは技術力の源泉である研究開発の量的・質的な低下がみられるとしている。図表2.3を見るとわかるが日本はリーマンショックの2008年以降研究開発費が減少しているのに対し、その他各国は研究開発費の増加を続けている。なかでもとりわけ中国・韓国の増加率は急激なものであり、今後もこの流れが続くものと思われる。

こうした状況を見ると、少なくともしばらくは日本がかつてように「ジャパンアズナンバ-ワン」と呼ばれるような技術競争力を取り戻すことは難しいであろうことが予測される。

 1.2.2で企業の側も機能だけでなくデザインでも競合と差をつける必要があると感じていることが見て取れたが、その背景にはこうしたコモディディ化の進展が大きく作用しているものと考えられる。

 以上の内容から考えると、ものづくり・製造業において技術面での差別化を打ち出していくことは容易ではなく、技術面以外での差別化要因がなければ、価格競争から脱することは難しいと言えるだろう。

 本論文ではその差別化要因としてデザインを提唱したいのである。

図表2.3 企業部門の研究開発費の推移

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出典:経済産業省 「2013年版 ものづくり白書」

 

(2)価格競争の回避

 ものづくり産業・サービス業ともに価格競争が激しく、新たな差別化要因が必要であるということを確認してきた。

 当たり前のことであるが、企業にとって価格競争は避けられればそれにこしたことはない(価格競争の果てに市場を独占することができるのなら話は別だが)。価格競争を回避していくためにもデザイン活動は必要である。

 2013年版ものづくり白書116Pではコモディティ化が進行する中でのブランド戦略の必要性を主張している。近年大きく台頭してきた企業の代表例としてアップルやサムスン電子があるが、これら2企業とも近年急速にブランド価値を高めていることが示されている。そして、これらの企業はブランド価値だけなく、企業としての業績も近年急速に伸ばしている。

 後述するが、デザインはブランド形成に大きく効果を表すものであり、デザイン活動をブランド構築までしっかりと繋げることができれば、価格競争の回避を実現できる。

 

(3)中小企業でこそ必要性が高い

 デザイン活動の導入は、中小企業では特に遅れがちであるが、それは決して中小企業では効果が薄いからというわけではない。むしろ私は中小企業でこそ導入の効果は高く、また運用も大手企業に比べて容易であると考えている。

イノベーションのジレンマ

 大手企業の市場でのポジションはコトラーマーケティング戦略の4類型でいえば、リーダーであることがほとんどである。リーダー企業がとるべき戦略のセオリーとしては、商品のフルライン化による市場シェアの確保と、競合他社の差別の効果を相対的に下げるための同質化である。これは企業に既にしっかりとした認知力・ブランド力があって成り立つ戦略といえる。

 しかし、リーダー企業はセオリーの戦略を守らんとするために、自らがイノベーションを起こすことは難しいことが多い。そのため、常にリーダーのポジションを維持できる企業は少なく、チャレンジャーやニッチャーといった企業が起こすイノベーションによってそのポジションが入れ替わることになる。

 デザインとはコミュニケーションのツールであり、その効果が強く働くときというのは、製品の革新性や競合との差別化要因を、一貫性を持って伝えるときである。イノベーションの原動力にもなりえる要素である。

 リーダー企業が展開する戦略の中心はフルライン化や同質化であり、その事業の展開範囲の広さから、相対的に「一貫性を貫く」というのは難しくなってくる。であればデザインの効果を最大限に発揮するのも難しいといえる。イノベーションのジレンマに陥るのと同様にである。2000年前半、携帯電話業界でトップをひた走っていたドコモが、当時チャレンジャー企業であったauに、デザイン携帯インフォーバーを市場に投入され、シェアを脅かされたのは代表的な例である。

 では一番効果的にデザインを活用できるのはどのポジションの企業なのか。それはニッチャー企業である。チャレンジャー企業もリーダー企業より適しているといえるが、ニッチャー企業が一番適していると私は考えている。その理由は①市場規模と②統制の容易さの2つである。

②市場規模

 大手企業はその規模の大きさから企業の維持にかかるコストも比例して高くなる。そのゆえに一定以上の収益性が必要になってくる為、それに見合う市場規模を必要とする。それに対し中小企業は組織の維持費が相対的に低く済むため、特定のターゲットへとしっかりと絞り込める。

 日本の大手家電メーカーの製品が、市場規模を増やすためにターゲット層を広げ、そのニーズを満たすために多機能となり、コンセプトがぶれるというのはその典型的な例である。

 そのため、市場規模を絞り、ターゲットを絞ることができる中小企業のほうがその活用性は高い。

③統制が容易

 先述の通り大手(リーダー)企業はフルライン化が基本戦略である。そのため広く展開した製品に一貫性を持たせるよう管理・統制するのは容易ではない。さらに、大手企業はその従業員の多さから組織が複雑化することが多く、社内の意思統一を図るためにかかるコストは非常に大きい。

 それに引き替え、中小企業では製品ライン、従業員数が少ないがゆえに製品に一貫性を持たせやすく、また社内の意思統一への迅速な対応が可能なのである。アップルを例にすれば、今でこそ社員数は多いが、製品ラインはimacipodiphoneipadのみである。圧倒的に絞られた製品ラインと言える。

図表2.4 市場ポジショニング

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出典:Philip Kotler 競争地位別戦略より筆者作成

 

(4)事業基盤の安定化のために

①創業後の企業が10年で何割生き残れるか

 創業後10年までどれだけの会社が生き残ることができるか。諸説ある話だが、いずれも創業から10年間、企業を存続させることは非常に大変だと言われている。

 創業まもない企業は、ノウハウ・認知度・信頼度といった要素が、老舗企業と比べ低くならざるを得ない。たとえ創業当初スタートダッシュに成功したとしても、事業基盤を固めるところまでは至らず、廃業を余儀なくされる企業は少なくない。長期的に事業基盤を安定させ、企業を維持していくというのは並大抵のことではない。企業の本質がゴーイングコンサーン(永続事業体)であるといわれるのもそれが理由である。

②経営理念が曖昧な企業の多さ

 企業を維持・存続していくうえで重要な要素として経営理念が明確に確立されているかどうかという問題がある。「帝国データバンク『百年続く企業の条件』朝日新聞出版、2009年」によれば、経営破綻を起こす企業の多くが、経営理念が曖昧であると語られている。自社の経営理念・ドメインが明確に定義されていなければ、企業として向かうべき方向が定まらず、自社にノウハウは蓄積しない。

 後述するが、デザインの活用は自社の企業理念の再定義の切っ掛けとなり、企業理念の定着に効果がある。

③ターゲットが曖昧な企業の多さ

 企業理念が曖昧な企業は、必然的にその顧客ターゲットも曖昧になるものである。

 短期的には、とりあえず売り上げの見込みが高いところへアプローチを集中したほうが、成果がでることもある。だが長期的な視点で考えれば、経営理念や企業戦略に基づく顧客ターゲットを設定すれば、その分ノウハウや企業の認知度といった要素は効率的に上がっていくはずである。

④知名度・信頼度の向上

 企業を維持していく上では、知名度や信頼度も当然必要となる。多くの人が新規の取引先との商談に臨む際には、その企業の知名度や信頼度をまず気に掛けるはずだ。創業まもない企業は、歴史が浅いだけにこれらの要素が不足しがちである。

 では歴史や知名度が浅い企業と新たに取引を検討する際に何を基準に判断するか。それは会社案内や会社HP、成果物の「見た目」ではないだろうか。「人は見た目が9割」という本が刊行され注目されたことは記憶に新しいが、初対面での判断基準の多くを占めるのは見た目である。「見た目より中身こそが重要」と考える人は多いだろうが、それはあくまで初対面でのコミュニケーションに成功した後の話である。初対面でのコミュニケーションでその後に繋げることができなければ、中身の良さを伝えることはできない。その意味でも、デザインが信頼を得るために重要な要素となる。

 ここでいう「見た目」とは、何も外見がスタイリッシュであるということではない。伝えたいことが伝わる見た目になっているかということである。例えば、会社HPが非常に簡素な造りで、どこをクリックすれば自分が知りたい情報が見ることができるのかわからないような造りであった場合、その企業に対する信頼感は間違いなく下がるだろう。見た目を改善し、信頼度を高めるとはそういった意味である。

 

(5)小括 

 ここまでのデザイン導入の必要性についての内容を振り返ると、まず一つ目には外部環境の変化に対する対応の必然性が挙げられた。グローバル競争のなかでは、もはや技術だけでは価格競争を回避することはできないことを確認した。

 二つ目には中小企業のデザイン導入優位性についてである。技術力に変わる競争要因としてデザインを考えた際に、規模の大きい企業に比べ中小企業はデザインを活用しやすいことを確認した。

 三つ目には組織内部の再強化の必要性である。デザインを導入することで、中小企業では曖昧になりがちな企業理念やポジションといった、企業自身の自己把握の必要性を見てきた。

 以上の三つの点から、デザイン活動の導入が、取り分け中小企業において必要であることを確認した。

 

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