デザインの投資効果判断の方法
はじめに
少し前のデータになりますが、2016年3月31日に経済産業省の調査報告書「デザインの活用によるイノベーション創出環境整備に向けたデザイン業の実態調査研究」が公開されました。
http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2016fy/000998.pdf
全体的な内容に関しては、筆者作成の「過去作成レポート」で参考文献としていた「デザイン導入の効果測定等に関する調査研究(2006年3月)」の最新版といった内容です。
ただし、今回の2016年版報告書には2006年の調査にはなかった新しい項目が追加されています。それはデザインの投資効果判断に関する項目です。「過去作成レポート」でもデザインの必要性や意義に関しては論じることができましたが、企業へのデザイン導入の判断基準となる、効果指標・測定に関しては明確な対策を記載することができませんでした。
そのため、今回は同報告書の投資効果判断に関する項目に関して記載していきます。
報告書の中身
調査の概要
まずは同報告書が基にしている調査項目を張り付けておきます。調査の方法はアンケート集計とヒアリング調査の2つの手法を用いています。まずアンケートに関しては下記のとおりです。
出典:経済産業省「デザインの活用によるイノベーション創出環境整備に向けたデザイン業の実態調査研究」46・47p
ヒアリングに関しては下記のとおりです。
出典:経済産業省「デザインの活用によるイノベーション創出環境整備に向けたデザイン業の実態調査研究」111・112p
※同報告書では、デザインの定義をどこまでの範囲とするかの記載がないため、おそらくデザイン全般を指しているものと思われます。
投資効果判断について
ここからは、同報告書内の投資効果判断に関する内容の部分を取り上げていきます。
出典:経済産業省「デザインの活用によるイノベーション創出環境整備に向けたデザイン業の実態調査研究」34p
今回の調査結果より、まずデザイン導入の効果をあげています。この効果項目は2006年の報告書とも概ね近い内容です。所感ですが、②の売り上げの増大に加えて、利益率の向上という項目があってもいいように思います。
出典:経済産業省「デザインの活用によるイノベーション創出環境整備に向けたデザイン業の実態調査研究」36p
このページでは、企業のデザイン投資に対する費用対効果算定を行っている企業の割合を示しています。デザインの導入に積極的な企業の中でも、6割以上が取組みそのものを行っていないことがわかります。効果測定を新たに行うことはそれだけでもコストであることに加えて、そもそも企業内部の情報を恒常的に管理把握できていることが前提になるため、そうした要因がハードルになるのではないでしょうか。定量的に把握しているとする回答が一番少ないこともその表れだと思います。
また、36p図表右側にある効果測定の評価軸は非常に参考なるところがあります。特に指標の概要は、実際に効果測定を行う際に使用できる項目だと思います。
割合としてはブランド向上・売上受注に関する項目が多いですが、生産性に関する項目も、製造業の事業運営を考える際には非常に重要な項目といえるでしょう。例えば、設備稼働率に季節性のある企業が、デザインを活用した新製品を展開することにより稼働率の平準化が図れた場合は、単純な売上向上以上の効果があるといえます。
出典:経済産業省「デザインの活用によるイノベーション創出環境整備に向けたデザイン業の実態調査研究」156p
同報告書156pではヒアリング調査の項目で目立つものを掲載しています。この中の項目で参考になるものをまとめると、下記のような項目になるのではないでしょうか。
- 定量的な評価だけでなく定性的な評価も必要であること
- 複数の評価軸から複合的・総合的に判断するべきこと
- 中長期的なKPI項目を設定・測定すること
デザインの特性上、財務的な数値項目だけでは測れない要素もあることから、定性的な評価項目は無視できないと思います。さらに、効果の派生する範囲が広いことから、複数の評価軸をもとに評価する必要があるでしょう。加えて、デザインとは長期的にブランディングまでつなげていくことで高い効果が期待できるといわれていることから、ある程度の長期視点での評価も必要になるものと思われます。
また少しは話はそれますが、意匠を融資の担保として評価する事例が増加すれば、それも評価項目の一つになるのではないでしょうか。
※最近では知的財産権を担保に融資を受けることができるABLという仕組みが注目されています。意匠による担保設定はまだ事例が少ないものと思います。
↓ABLについて
http://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g90529a02j.pdf
まとめ
今回の調査では、明確な測定方法が示されたわけではありませんが、重要なポイントは示されたのではないでしょうか。まとめると下記のような項目かと思います。
- デザインを導入する企業の目的にあった評価指標を設定すべき
- 業界や取引形態等の企業特性に合わせた評価指標を設定すべき
- 中長期的な評価指標を設定すべき
- 定性要因・定量要因合わせて総合的な評価が必要
- 効果を測定するためには、そもそもしっかりとした社内管理体制の構築や、外部の市場調査機関を活用するといった取組みが必要
今後は、各業界や企業累計に合わせた評価指標が広く一般に示されると、経営資源に乏しい中小企業でも導入が進むのではと感じました。
加えて、こうした効果測定の方法をデザイン導入段階で積極的に提案していくことも、中小企業へデザインを導入する際には必要ではないかと感じています。その際、その説明役にも、中小企業診断士のようなコンサルタントが適しているように思います。
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