高度デザイン人材に関する考察
先日経済産業省より「平成28年度 第4次産業革命におけるデザイン等クリエイティブの重要性及び具体的な施策検討に係る調査研究 報告書」というファイルがアップロードされました。
これまでも経済産業省からは、デザイン政策に関する調査資料は発表されていましたが、今回の資料は、最近の経済産業省からの資料に度々出ていたキーワード「高度デザイン人材」に関する具体的な項目に踏み込んだ内容となっています。
当ブログでもこれまで企業とデザインの分野を繋ぐことができるハイブリッドな人材の必要性に関して論じてきたため、今回の発表資料がそうした内容になっているのか、確認していきたいと思います。
資料の要約
調査方法
下記図表のような形式で調査を行ったようです。
出典:「平成28年度 第4次産業革命におけるデザイン等クリエイティブの重要性及び具体的な施策検討に係る調査研究 報告書」
高度デザイン人材の人物像(同資料46p参照)
高度デザイン人材に求められる能力は大別する下記3項目のようです。
高度デザイン人材の育成方法
就職前の教育機関において
高度デザイン人材の能力は専門性よりも横断的な基礎力に紐付いており、高校生までの 基礎的な学習が有効である。また、大学生・大学院生では、企業のリアルなニーズのもとで クリエイティブの重要性を認識する取組みも必要となる。具体的には、芸術系学生・社会科 学系・理工学系など多様な学問領域の学生が、企業や各種団体が行う実際の開発プロジェク ト、インターンシップ、製品・サービス開発のワークショップを一緒に行い、実際の取組み を通じてクリエイティブの重要性を認識することが重要である。
企業内での人材育成
基本的に、「デザイン人材を育成するための取り組みは、4 割の企業で特に何も実施され ておらず、残りの 5 割程度の企業でも OJT など現場の業務を通じた習得がメインである」 ことがアンケート調査で示されたように、絶え間ない OJT において実践的に学び取ること が重要であると考えられている。
管理人の見解
今回の調査内容を見た限りでは、率直に言ってこれまでの調査内容の範疇を出ていません。当ブログ過去作成レポート カテゴリーの記事一覧 - design+managementにて取り上げた資料「デザイン導入の効果測定等に関する調査研究」から大きな発展がないように感じます。資料の結論では、本件に関しては取り組みが始まったばかりであるとのことでしたが、「デザイン導入の効果測定等に関する調査研究」は2006年に発表されています。
さらに、本調査での対象は大企業の側をかなり向いているように感じました。デザインを実施する組織体制にはCCOの設置が重要等、中堅以上の企業に目が向いているようです。
加えて、政策提言の内容も、抽象的な内容と、既に各関係機関で実施されているものが中心でした。
「デザイン導入の効果測定等に関する調査研究」では日本企業へデザインの導入を阻んできたのは下記4つの壁であるとしています。
①技術至上主義の壁
デザインは製品の外観を整えるだけの表面的なものという認識があり、技術こそが製品の本質的な要素だと思われている。
特に日本では以前から技術至上主義の傾向が根強く、デザインに対して、本腰をいれて向き合ってこなかった経緯がある。2007年ものづくり白書にも技術・営業が優先されてきたことが示されている。
②費用対効果の壁
デザインの導入を検討するに至っても、どれだけの効果が具体的に得られるのかが不鮮明なため、導入に踏み切ることができない。
③トラウマの壁
高いデザイン料を払ったにもかかわらず、売上が上がらなかった、デザイナーと大喧嘩した等の失敗経験がトラウマとなっており、デザイナーと二度と関わりたくないと考えている。
④体力の壁
デザインの導入を検討するに至っても、デザイナーに関する情報を収集したり、デザイン料を負担する余裕がない。
design-management.hatenablog.jp
今回の資料で示された高度デザイン人材像は、上記要因に対する対策となっていないように感じます。人物像・育成方法含めて、必要なのは、実践的かつ専門性の高い具体的な項目を設定していくことであると私は考えています。
本調査の管轄は同じ経済産業省ですが、調査の委託先が日本総研から三菱総研に代わっていることも、今回の調査結果の要因となっているのかもしれません。
私の考える高度デザイン人材=企業とデザインを繋ぐ人材に求められる能力に関しては、次回の記事で記載したいと思います。
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