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書評・感想「経営とデザインの幸せな関係」中川淳

 

 

 

初めに

 今回は2016年11月に出版された「経営とデザインの幸せな関係」という書籍を紹介します。本書はデザインを経営に取り入れるにはどのような点に注意すればいいのかという内容が記載されています。これまでも、同様のテーマを題材にした書籍はいくつかありましたが、本書では、割と規模の小さい中小企業向けの内容になっている点が特徴的です。

経営とデザインの幸せな関係

経営とデザインの幸せな関係

 

 

 

目次:本の構成 ※amazon より

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1 会社を診断する

  • “会社のことを正しく知る”ことは基本中の基本。決算書の読み方をはじめ、ポイントを押さえ、会社の数字が理解できるようになる方法を解説します。

2 ブランドをつくる

  • ブランドとして認められる結果を意図して能動的に「ブランドをつくっていく」というのがブランディングです。ブランドづくりの根本の考え方、手順を解説します。

3 商品をつくる

  • 大切なのは、ものづくりに関わるすべての人が商品開発全体のフローを理解し、共通言語を持つこと。新商品開発フローや必要な考え方、押さえておくべきポイントを解説します。 

4 コミュニケーションを設計する

  • ブランドや商品は、それらがすべてお客さんに「伝わって」初めて意味を成します。営業戦略や流通戦略、販促・PRなどを総合的に考え、戦略を設計する方法を解説します。

5 対談

 目次を見ると、構成としては、一番最初に「会社を診断する」という内容から始まっています。デザインを題材にした本としては非常に珍しい構成です。事業の内容把握だけでなく、決算書分析・負債の状況などから資金繰りの面にまで触れられています。これは、これまで当ブログで一貫して主張してきた「デザイナーと経営コンサルタントが協業したほうがより高い成果を期待できる」という内容と非常に近い内容です。

 

 

中川淳氏について

 著者の中川淳氏は、中川政七商店という老舗の麻織物を取り扱う会社の社長です。自社の経営の立て直しの際に培ったノウハウをもとに、類似する業界企業のコンサルティングを行っています。

www.yu-nakagawa.co.jp

net.keizaikai.co.jp

 

本書内容の要点整理

本書でのデザインの定義

 本書の中でデザインという言葉ははっきりと定義はされていませんが、内容から察するに、CI・VI・WEB・パッケージといった「情報デザイン」と、売場等の「空間デザイン」、そして実際の商品そのものの「製品デザイン」を中心に記載されているものと思われます。

 

会社診断の手法について

 会社の診断の手法に関しては、オーソドックスな内容になっています。基本に忠実に、決算書分析・SWOT分析・フレームワークによる整理・3C4P・STPなどを通じて会社の情報を整理します。また、個別の製品の原価構成や、プロダクトライフクルにまで踏み込んでおり、中川政七商店がコンサルした工芸関係の企業寄りの内容も記載されています。簡易的なフレームワーク・フォーマットも記載されているため、実践に応用しやすい構成になっています。

 加えて、診断だけでなく、会社の中期経営計画を立てることも併せて推奨されており、この点も中小企業診断士等のコンサルタントとデザイナーの協業の必要性を感じさせる内容でした。

 

経営計画があって、それを反映するブランドがある

 構成としては、会社の中期経営計画の後にブランドの構築に関して記載されています。つまり、会社の全社戦略があった上で、その内容と整合性の取れているブランドを構築しなければ意味がないことを示しています。これは中小企業の特性をしっかりととらえた内容であると感じました。大手企業では、全社戦略までいかずとも、もう一段下の各事業戦略との整合性に注目されることもありますが、中小企業では事業数や経営資源に限りがあることから、全社戦略としっかりと整合性のとれた内容でなければ成果に結びつけることができないでしょう。

 本書では、ブランド構築の際には、経営課題と整合性の取れた、流通経路・価格設定の必要性が書かれており、実情に踏み込んだ内容であるといえます。

 私が過去に書いた下記記事の「(5)小括」でも同様の内容を記載しており、非常に共感するポイントでした。

design-management.hatenablog.jp

 

 商品戦略

  商品戦略に関する内容に関しては、個人的にこれまで小売業界にあまり専門知識がなかったため、非常に参考になる点も多くありました。

 ブランドに属する商品群を、ブランドのライフサイクルに合わせて管理するなどといった内容は、小売関係業界に専門性がないと対応できない項目ではないかと感じました。

リサーチ

 商品企画を考える際のリサーチの手法に関しても記載があり、商品の持つ構成要素を洗い出し整理するという視点は非常に勉強になりました。そのフレームワークも掲載されており、機会があれば是非使ってみたいと感じさせるものでした。

知財

 近年デザインの分野では知的財産権の活用が非常に重要視されていますが、本書では、ファッション・雑貨の分野においては意匠・実用新案は実態として効果を期待するのは難しく、商標のみに絞っていると記載されています。その点も、実態に即した参考になる内容でした。

外部デザイナーの活用方法

 デザイナーの選定に当たっては、「デザイナー特有の持ち味」と「デザイナーの守備範囲」が、企業側の要望に対応していることが重要とされており、ここでもその内容を示すフォーマットが掲載されています。これまで個人的にモヤモヤと考えていたことが整理されており、参考になりました。

 

顧客とのコミュニケーション

 

 第4章として、コミュニケーション設計という章がありますが、ここは乱暴に解釈すると、伝統的なマーケティング戦略と大きな違いはないように個人的には感じました。 

 ただ、個別の内容やフレーム・フォーマットは参考になります。

 

終わりに

 本書では、経営戦略からブランド・個別の商品政策まで一貫した整合性が重要であることを主張し、デザイン側と経営側の共通認識を作るための工夫・フォーマットを各意思決定フローごとに掲載していくという内容になっています。これまで、自分でも試案してきた内容に近いものであり、かつ実体験に基づく内容であったため、非常に参考になりました。

 経営とデザインをつなぐというテーマは、デザイナーからのアプローチで行われることが多いのが現状ですが、私は本書の内容を経営コンサルタントしての視点で掘り下げ、より精度の高い方法論を模索したいと考えています。