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経営に役立つデザインの情報を紹介します

第二章 中小企業へのデザイン導入の必要とその効果③

 

 

 

 

 

design-management.hatenablog.jp

 

※前章の記事

 2.3 デザイン成功要因・失敗要因

 ここまでは、企業におけるデザイン活動の導入の効果にはどのようなものがあるかを確認してきた。

 グローバルレベルでの競争激化、コモディティ化の進展といった外部環境の変化に対しデザインの導入が効果があることはこれまで見てきた通りである。

 ただ、効果があるからといって闇雲にデザインを導入してだけでは、高い効果が得られるとは限らない。そこには効果を生み出すに至る成功要因や失敗要因が存在する。特に、デザインの導入に馴染みが薄い中小企業であればなおさらである。ここからは、デザイン導入における成功要因、失敗要因を見ていきたい。

 

 (1)経営層での成功失敗要因

 まず、経営の一番上位エリアには経営者の意思決定があるわけだが、デザインの導入には「経営トップのデザインへの理解」が必要不可欠である。これはデザインに限らず、あらゆる新規事業に言えることだが、何か新しい取り組みを行う際には、トップの理解が得られなければ、目標達成を待たずしてなし崩しに終わってしまうことが多い。ましてやワンマン体制が多くみられる中小企業であればなおさらの事である。

それを裏付けるデータがある。産業研究所ではグッドデザイン賞を受賞した企業に対し、アンケート調査を行なった。アンケートでは図表2.14、図表2.15の各項目に対して重要性の認識(「重要である」「多少重要である」「あまり重要ではない」「重要ではない」の4段階)とその実施・定着状況(「実施し定着している」「取り組み始めている」「未着手である」)を尋ね、その結果をデザイン導入効果との関係を分析した。

こうした質問項目を基に、その結果をデザイン導入に関する認識の高い上位10企業、低い下位10企業に分けてまとめている。

図表2.14 デザイン導入成功へのキーファクター(仮説)

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出典:産業研究所「デザイン導入の効果測定等に関する調査研究 2006年」

 

図表2.15 デザイン導入成功へのキーファクター(仮説)

(社外デザイナーマネジメント)

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出典:産業研究所「デザイン導入の効果測定等に関する調査研究 2006年」

 

図表2.16 デザイン導入キーファクターに対する重要性認識

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出典:産業研究所「デザイン導入の効果測定等に関する調査研究 2006年」基に筆者作成

 

図表2.17 デザイン導入キーファクターの実施定着率

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出典:産業研究所「デザイン導入の効果測定等に関する調査研究 2006年」基に筆者作成

 

 この図表2.16は同研究のアンケート結果を基に、経営トップに関わる項目に絞って筆者が作成したグラフである。図表2.16を見ると調査企業の

「経営トップがデザインを理解する」

「デザインに対する方針を明確にする」

「長期的な視点でデザインに取り組む」

の3つの項目に対する重要性の認識は上位下位企業共に非常に高い結果となっている。

図表2.17の定着率に注目すると上位企業と下位企業との間に大きな開きがあり上位企業ほど定着率が高いことがわかる。このことから、これら3項目はデザイン導入の際の成功要因であると考えられる。

 また図表2.18はアンケート結果から、デザインに取り組んでいる期間とデザインマネジメントのレベルの関係をまとめたものである。各レベルは□オペレーションレベル□組織レベル□戦略レベルに分かれており戦略レベルに近づくにつれて高くなる。図表2.18を見ると取組期間が長いほどレベルが高くなっていくことが見て取れる。

図表2.18 デザインに取り組んでいる期間とデザインマネジメントレベル

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出典:産業研究所「デザイン導入の効果測定等に関する調査研究 2006年」

 

 以上の点から、経営トップがデザインの重要性を理解したうえで、長期的な目線で一貫したデザイン政策を推進していくことが、成功のカギとなるといえるだろう。

 

 (2) マネジメント(組織)の問題 デザインの川上化

図表2.19 デザイナーの川上化の重要性

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出典:産業研究所「デザイン導入の効果測定等に関する調査研究 2006年」基に筆者作成

 

 次に、デザイン活動の組織における運用方法での成功要因を確認する。

 先の章(ピラミッド図)において、デザインは経営の下位概念で上辺だけ導入しても効果が低いことを示した。成功要因も同様で、デザイナーやデザイン部門を、経営の川上から参加させ、さらに部門横断的に関与させることが、重要な要素である。図表2.19を見ると、重要度に対する認識は高く、上位企業下位企業で定着率に開きがあることから、これも成功要因の一つといえるだろう。

図表2.20 グッドデザイン賞受賞商品効果項目の定着率差

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出典:産業研究所「デザイン導入の効果測定等に関する調査研究 2006年」基に筆者作成

 

 さらにこの川上化に関してはデザイン導入効果項目とも比較して分析されている。

 同研究では、①~③のものづくりに関する効果について着目している。もちろんそれらの項目も重要性は高く、また定着率の差異も大きいのだが、筆者は④④企業又は商品のブランドの構築と⑤経営理念の再構築に注目したい。本論文では、デザインの効果としてブランドの構築と経営理念の再構築に関して強く主張してきた。これらの効果を高める要因となるデザインの川上化の成功要因としての重要度は高いといえる。

 また、デザインを川上から横断的に導入するためには、①経営トップの理解のもと組織全体でデザインの必要性を理解すべき点と②デザイナー側にも経営知識が必要な点の二つの面が必要となる。この際にも、中小企業診断士のような存在が、この二つの側面を補う必要性があることを指摘しておく。

 

(3)デザイナーとの関係性の問題

 ここからは、企業とデザイナーとの関係性を考える。

 前提として、中小企業はここまで見てきた通り,デザインを導入したことがない場合がほとんどである。また導入においてもデザインコーディネーターが必要という観点から、ここではデザイナーは社外の人間と連携することを前提に話を進める。

①関係性構築における注意事項

 社外デザイナーとの関係性を考える際に図表2.21を見てみたい。

 この図は、1980年代の英国で行われた調査によるものである。当時のイギリスではデザイン振興策として、従業員1000 人以下の中小企業に社外デザイナー(デザインコンサルタント)を雇い入れるのに必要な補助金を支給していた。この補助を受けた221の企業に対して、フォローアップ調査を行った結果が図表2.21である。この図を見ると、

「デザイナーとの契約内容を明確化する」

「デザイナーとの役割分担を明確化する」

「デザイナーに予算、コスト等の制約条件を明示する」

「デザイン導入に対する社内のコンセンサスを作る」

において、重要性に対する認識に上位企業下位企業の間に大きな開きがあることがわかる。

 まず、先の2つの項目はデザイナーとの契約方法・条件に関する項目である。社外のデザイナーと上手く連携し効果を上げるためには、契約内容、役割分担をはじめに明確にし、デザイナーのモチベーションを高く維持することが必要であることが見て取れる。

 しつこく言っているように、中小企業はデザインの導入に慣れていないことが多い。そのためこのような基本的な契約についても、その間を取り持つ存在が、デザイン導入成功に必要となること考えられる。

 さらに「デザイン導入に対する社内のコンセンサスを作る」の項目においては、重要性認識だけでなく、その定着率にも大きな差がある。これはデザイン導入の前に、導入の必要性を社内全員が認識し理解する必要があることを示している。

図表2.21 デザイン導入を成功させるためのキーファクターに対する認識と実施率 (社外デザイナーのマネジメント)

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出典:産業研究所「デザイン導入の効果測定等に関する調査研究 2006年」

 

 また、図表2.22を見ると、社外デザイナーとの取組を通じて企業管理者が感じた教訓として、「明確なブリーフィング、仕様特定重要性」を一番に挙げている。また3番目には「デザイナーの進捗管理と打ち合わせを定期的に実施することの重要性」を挙げており、ここでもデザイナーとのコミュニケーション、相互理解が重要視されていることがわかる。このことからも、企業とデザイナーの間を取り持つ潤滑油的存在の必要性が感じられる。

図表2.22 社外デザイナーとの取組を通じて企業の管理者が感じた教訓

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出典:産業研究所「デザイン導入の効果測定等に関する調査研究 2006年」

 

②デザイナーのタイプを理解する

 デザイナーとの関係性を良好なものとするためには、条件や注意事項だけでなく、デザイナーがどのようなタイプなのかも理解する必要がある。

 図表2.23は「中小企業のデザイン戦略」内で紹介されている、3タイプの工業デザイナーのメリット、デメリット、付き合う際の注意事項を筆者がまとめたものである。

図表2.23 工業デザイナータイプ別の特長

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出典:木全 賢 井上 和世「中小企業のデザイン戦略」PHPビジネス新書 2009年 より筆者作成

 

 この表に挙げている項目はあくまでこうした傾向がある、というものですべての工業デザイナーがここに当てはまるわけではない。しかし、デザイナーのタイプや傾向といったものを理解することで、企業へのデザイン導入の際の失敗は事前に防げる確立が高まるだろう。

 其々のデザイナーのタイプは一兆一旦である。それぞれの長所短所を理解し、図表2.23内の「注意事項」を中小企業診断士が補うことで、中小企業へのデザイン導入効果を高める必要がある。

 

(4)デザイン保護の問題

 デザインの導入効果を高めるためには、法律で保護し、競合の参入を阻止していくことも重要である。図2.24は知的財産研究所が企業に対し行ったアンケ―ト結果である。

図表2.24 製品企画・開発上で対策に苦労した他社の意匠権

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出典:知的財産研究所 「企業の事業戦略におけるデザインを中心としたブランド形成・維持のための産業財産権制度の活用に関する調査研究報告書 2011年」

 

 これを見ると、8割の企業が他社の意匠権保護により何らかの対応を迫られており、意匠権活用が競合他社への抑止効果があることの表れとなっている。また意匠権活用にあたっては、少数で登録するよりも複数を登録して保護する方が望ましいと言われている。図表2.25では意匠権が他社牽制・参入防止効果を有していると回答した者と、それ以外の者で製品当たりの意匠出願の件数違いを調べたものである。意匠権が他社牽制・参入防止効果を有していると回答した者は、それ以外の者よりも多数の意匠出願を行っていることが見て取れる。このことから、意匠権により他社牽制・参入防止効果を得るためには、多数の意匠出願を行う方がより効果的といえる。

図表2.25 他社牽制・参入防止効果に有効な産業財産権と意匠出願件数

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出典:知的財産研究所 「企業の事業戦略におけるデザインを中心としたブランド形成・維持のための産業財産権制度の活用に関する調査研究報告書 2011年」

 

 ただ、意匠権の登録に当たっては当然費用や手間が発生する。中小企業の限りある経営資源の中では、その都度製品デザインの重要性と意匠権登録コストとの兼ね合いを見ながら対応していく必要があるだろう。

 また、製品ライフサイクルの短い物に限っては、意匠権よりも不正競争防止法によって保護することも有効であるとされている。(不正競争防止法では、最初の販売から3年まで有効である)

 

(5)小括 

 デザイン導入の成功要因ここでもう一度まとめておきたい。

 まずデザイン導入においては企業の経営層の理解と、その経営層による長期目線での活動継続が重要である。

 経営上位の理解が得られたら、部分的に導入するだけでなく、企業組織の活動全般に渡り横断的に導入することが求められる。

 また、対企業の視点だけでなく対デザイナーに対しては、デザイナーとの契約内容を明確化する」「デザイナーとの役割分担を明確化する」「デザイナーに予算、コスト等の制約条件を明示する」といった項目の重要性を確認、ひいてはデザイナーとの打ち合わせの重要を確認した。

 法律の面からは、意匠権を効果的に活用する術を考えている。

 これらいずれの成功要因も、経営資源に余裕のない中小企業においては、全てを満足に満たすことは容易ではない。この成功要因を高める為に、中小企業診断士が、デザインコーディネーターとして企業とデザイナーとの橋渡し役になる必要性を、次の章から示していきたい。