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経営に役立つデザインの情報を紹介します

第三章 デザインコーディネーターとしての中小企業診断士②

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design-management.hatenablog.jp

 

3.2デザインコーディネーターの必要性

 まずコーディネーターの概要を確認したところで、ここからはデザインコーディネーターの必要性について考えていきたい。

(1)デザイン戦略の立案の手助け

 本論文「2.3デザイン成功要因・失敗要因」での図表で「デザインに対する方針を明らかにする」という項目があった。2.3では上位企業下位企業でこの項目の定着率に差があることに着目し、成功要因となりえること主張していた。

 しかし、この値は上位下位企業の値を平均すれば25%と非常に低い数字である。企業ではデザインに対する方針、つまりデザイン戦略が固まっていないことが大多数というのが現状と言える。

 成功要因であるのにも関わらず定着率が低いのであれば、今後改善が望まれるものであり、それを担うのはデザインコーディネーター(中小企業診断士)ではないだろうか。デザイン戦略を立案するには企業の経営戦略を理解し、整合性を図る必要がある。それは企業の経営全体を見ることができる診断士の役割である。

 

 

図表2.17 デザイン導入キーファクターの実施定着率(再掲)

 

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(2)販売、流通等を含めたトータルでデザインの必要性 

 デザイン戦略立案と類似の内容だが、部門横断的に企業へのデザイン活動を導入し、一貫性のあるデザイン活動を推進することも必要である。2.3でデザインの部門横断的運用の重要性を見てきたが、企業其々の部門にデザインの意義を浸透させるには、其々の部門特性を理解するための経営知識が求められる。ここにもデザインコーディネーターの必要性を感じるところである。 

図表2.19 デザイナーの川上化の重要性(再掲)

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(3)デザイナーの経営知識を補う

 (1)(2)とも共通することであるが、デザイナー側の経営に関する知識を補うことも重要な点である。

 2.2(3)で確認したように、価格競争回避に必要な要素として、デザイナーが経営知識や、企業の経営戦略を理解することが挙げられていた。当然経営知識が豊富なデザイナーも存在するだろうが、必ずそうしたデザイナーに企業が巡り合えるとは限らない。

 また1.2(3)「日本のデザイン政策の後れ」でも確認したように、デザインが高度化している中で、外観を整える技術だけでなく、「調整力」や「マネジメント力」が求められているという点も、デザイナーの経営知識を補う必要性の裏付けとなるだろう。

 デザインの効果を十分に発揮するためには、デザイナーの経営知識を補う存在が欠かせないのである。

図表2.10 デザイン導入で「従来よりも高価格での価格設定」を実現した企業の特長 (再掲)

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(4)ITCの前例から考える期待効果

 コーディネーターの資格として既に確立されているものとしては、ITコーディネーターが代表的である。ITコーディネーターとは、2000年代前半に日本企業におけるIT利活用の遅れを問題視される中、その打開策を担う存在として注目を浴びた資格である。

 その必要性と役割に関しては図表3.2を見るとわかりやすい。ITシステムの導入の際には、ユーザー企業側とベンダー企業側双方に経営やITに関する知識・経験が不足していることが多く、これが思うようにIT利活用が進まない要因とされている。こうした悪い流れを断ち切るにはユーザー側ベンダー側双方の実情を理解し、調整する役割の人間が必要とされたのである。

 こうしたことはデザインに関しても同様であるといえるだろう。ITに比べ導入事例が比較的少ないため問題が大きく取り沙汰されていないだけで、相互理解不足による同様の悪循環は起こっていると考えられる。

 だとすれば一足先に導入され効果を上げているITコーディネーターと同様に、デザインコーディネーターもその導入の効果が期待できるはずである。

図表3.2 情報化投資の企画調達プロセスの甘さ

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出典:特定非営利法人 ITコーディネーター協会「ITC実践力ガイドラインver.1.0 2010年」

 

(5)韓国でのデザインコンサルタントの浸透

 1.2(2)で世界各国のデザイン政策を確認したが、韓国では既に中小企業向けの支援策としてデザインホームドクター制度でデザインコンサルを実施しており、企業とデザイナーをつなぐ支援を行っている。こうした取り組みにより成功事例は着実に増えており、「良いデザインは利益を生む」という認識が中小企業にも浸透しつつある。※(近畿におけるデザインビジネスの活性化方策に関する調査報告書より)

 韓国の前例から考えると、日本でもデザインコーディネーターのような企業とデザイナーを繋ぐ存在が、デザイン活動の普及に一役買うといえるだろう。