中小企業とデザイナーの協業の注意点
はじめに
先日2017年1月25日、公益財団法人日本デザイン振興会が企画・運営する「東京ビジネスデザインアワード」の最終審査が行われ、私も審査の様子を見学させてもらいました。
当アワードは都内の中小製造業とデザイナーをマッチングする提案コンペ形式の企画です。審査員の方々はいずれも第一線で活躍されている方々で構成されており、今年も非常にハイレベルな事例が多く見られました。
また、当企画は募集・コンペから表彰までのスキーム非常に良く練られており、中小企業とデザイナーの協業を考える際、非常に参考になる内容が多くあります。
この企画がどのような経緯でつくられたのかに関する論文が、日本デザイン振興会H、P内で公開されているため、今回はそのことに関して触れたいと思います。
【中小企業とデザイナーのマッチング事業モデルに関する研究】
https://archive.jidp.or.jp/ja/activities/study_on_bmefm_smes_d2014rev2.pdf
従来のマッチングの課題点
論文内では、過去に前身の企画として運営されていた「東京デザインマーケット」での課題点を、企業よりもデザイナー側に力点を置いていた事としており、さらにその具体的な課題は下記4つであるとしています。
- 企業側のシーズを汲み入れていない
- 企業側の意欲を喚起出来ていない
- 契約の締結方法、知的財産権へのサポートの不足
- マーケット・インに対するサポートの不足
課題に対する対策
東京ビジネスデザインアワードではこれらの点を踏まえ、まず企業側に導入の下地づくりを行うことで、その企画の精度を高めているとしています。その概念図が下記の図になります。
出典:日本デザイン振興会「中小企業とデザイナーのマッチング事業モデルに関する研究」
同アワードでの具体的な工夫点は大きく分けて下記の3つとのことです。
- 審査員はデザインだけでなく、応募する企業側の事業分析も行った上で企業側のテーマを審査
- デザインの知的財産に関してのトラブルを避けるため、事務局が知財コンサルとしてサポート
- 下請製造業は販路開拓のノウハウがないことが多いため、実際に製品化した後サポートとして、最終審査会以後1年間PR等のサポートを事務局等が行う
経営コンサルタント(中小企業診断士)が担うべき役割
上記項目は、中小企業とデザイナーをマッチングさせるコンペティションでの要点でしたが、その内容・項目は両者が協業を考える際にも非常に参考になるものです。
そして、過去の記事でも記載していますが、この要点をデザイナーだけでなく経営コンサルタントが補うことで、デザインの導入がスムーズになるものと私は考えています。
design-management.hatenablog.jp
上記1~3の項目はデザイナーの本来の業務ではないものです。デザイナー側もある程度理解があるほうがより現実的なデザインに近づけることができるでしょうが、企業の事業分析や販路開拓・市場導入といった分野は本来経営コンサルタントが専門とする分野です。
これらすべての内容を網羅できるデザイナーは多くありません。経済産業省がまとめた「デザインの活用によるイノベーション創出環境整備に向けたデザイン業の実態調査研究」の報告書内でも、高度なデザイン人材は不足しており、そうした人材の育成・確保が必要であることが触れられています。
http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2016fy/000998.pdf
また知的財産権の分野に限っては、弁理士とうまく協業することも解決策の一つでしょう。日本弁理士会や東京都知的財産総合センターなどでは、無料の相談やマッチングを行っています。
それぞれの専門家がうまくタッグを組むことで、デザインの導入は進むものと思います。ただその際、デザイナーの側では、近年企業分析や市場導入までの視点の重要性が注目されていますが、経営コンサルタント(中小企業診断士)の側では、まだデザイン導入への関心が低いように私は感じています。
中小企業とデザイナーの協業を進めるには、デザイン分野にも造詣深い経営コンサルタントが仲介役として機能することが求められていくのではないでしょうか。
今後のブログでは、この仲介役に求められる能力に関して、掘り下げて書いていきたいと思います。